京都喫茶物語 カフェでの出会い

 「バーの中ではね、

何でもいいからやってみると

いつも事件が起こるんだ」

従兄弟のジャークが

ボーヴォワールに語った言葉。

この日の言葉をきっかけに

彼女はカフェに通い始める。

 

カフェにあった小さな事件、

それは「何でもいいから何か」でよくて

わたしが出会った小さな事件は

テレビの取材という事件。

 

雑誌にはよく載っているそのカフェも、

テレビの取材ははじめてらしく、

1ヶ月前くらいから

マスターはそわそわしてて、

11月17日は取材が来るから

絶対来てよと言われてた。

 

取材の時間は朝の6時半からで

辛いなーと思いながらも 

でもマスターと約束したし

サンドイッチを御馳走してあげる、と

事前に約束してくれていたから

行かなきゃーーと思ってた。

 

 

それでもやっぱり6時半はきつくって 

がんばって6時に起きて支度したのに

到着したのは8時頃。

来ると言ってた友達も

ドタキャンになってしまって

私一人でドアを開けると 

あれ?予想以上に人が居ない。

 

「すみません遅れちゃって・・・

もうみんな帰っちゃったんですか?」

と聞いてみる。

 

「みーんなねえ、

来てないのよまだ!!」

とちょっと怒ってるお姉さん。

かなりガランとした店内に

テレビ局の人がちらほら。

取材は予想してたより早い時間で、

常連さんはまだ来ずに

仕方がないからテレビ局の

スタッフをいれて撮影をしたとの

ことで、ごめんなさい・・・

と謝りながらカウンターへ足を運ぶ。

 

すると奥には私の知らない男性2人。

しかも若い。

あれ?この店の若い常連なんて

私だけかと思ってたけど

この人も仲良さそうに

お姉さんとしゃべってる。

こんな人はじめてみたなあ

常連さん、なのかなあ。

 

撮影されるかもしれないから

と、この日ばかりは

カウンターの隙間をつめられ、

わたしはその人の隣になった。

そこで会話したかどうかは覚えてないけど

ちちんぷいぷいの魔法があって

 

そこでみんなは

出会っていった。

 

放映日は私の誕生日だったから 

その日ゴゴには行けずにいたけれど、

23日が過ぎてから 

ひとしきり話題になって 

常連さんは皆見てたから

マスターの顔の映りがどうだとか

あんなに撮って

CMよりも短くしか

放映されなかったとか

別にテレビ効果で

お客は増えてないだとか 

いろんな話が飛び交って 

ちちんぷいぷいという事件の

お陰で私も話の輪に入っていけた。

 

 

あの朝出会った

見知らぬ若い常連さんは

あんな早くに

店にきちんといたくらいだから

いつも来るのは私よりも

ずっと早いということも知る。

9時過ぎに店に来ていた私と

9時前には店を出ていた彼と、

出会うことのなかった人が

事件を機に出会ってく。

 

全然違う世界の人に 

いとも簡単に会えるカフェ。

全然違う世界の人とも 

連帯感の生まれるカフェ。

テレビの取材があったとき 

常連さんはあえて姿を

見せずにいたけど 

でも確かに 

みんなのなかには

この店に通う事に対する

連帯感があったと思う。

 

 

「僕はカフェはゴゴしか行かない」

そう言った彼の

この店に対する確かな想い

 

同じ店で 

同じ時間にコーヒーを飲んで

時を過ごす。

ただそれだけのことなのに 

カフェがもつ威力はすごい。

ゴゴに出会って 

自分で体験しなければ

論文は決して書けなかったし

自分の言葉でカフェの魅力を

語れなかったと本当に思う。

 

※2007年4月に書いたものを加筆修正しています。