フランス、パリのカフェ文化


 パリは交差点ごとに1〜2軒のカフェがあり、有名な広場のまわりには4〜5軒程のカフェがひしめき合っています。パリのカフェの多くは早朝から夜遅くまで営業しており、エスプレッソやビールにワイン、サンドイッチ、オムレツからステーキ、煮込み料理に至るまで、自分の都合に応じて楽しめます。パリのカフェのシンボルといえば歩道に張り出されたテラス。大きなひさしの下には藤の椅子と丸テーブルが何列にも並んでいます。街行く人を眺めながら友人と会話をしたり、心ゆくまで考え事にふけったり。パリのカフェテラスで過ごす時間はまさに人生の喜びそのものです。
 

 とはいえパリのカフェの魅力はテラスだけではありません。実はほとんどのカフェには、テラスとは対照的なカウンターが店の奥に存在します。テラスが観光客やゆっくりしたい人向けであるのに対して、カウンターは主に常連客向け。値段も基本的にテラスや店内より安く設定されています。エスプレッソはカウンターならほぼ1ユーロ。どんなに豪華な造りの空間でも、カウンターに行けば130円程度でそこにいられるというのは贅沢なことで。カウンターは基本的に立ち飲みで、サッと朝食をとりたい時や、エスプレッソをサッと流しこみたい時に立寄って、スッとお勘定し、あまり長居はしないもの。主人は常連客に挨拶すると何も言わずに「いつもの」飲み物をサッと出します。銅や亜鉛のどっしりしたカウンターに片肘をつき、グラス片手に店内の様子をそっと眺める。気軽に立ち寄れ、誰かに出会い、忙しい日常から自分をほんのひとときリセットできる、日常の中にそんな場がふんだんにあるというのが羨ましい限り。
 


 アメリカ人の社会学者、レイ・オルデンバーグは著書 "The Great Good Place"の中で「パリのカフェほどサードプレイスとして認めやすいものは他にない」と述べています。サードプレイスとは、家庭(第一の場)でも職場(第二の場)でもなく、友人や知人たちと気軽に落ち合える場所のこと。スターバックスの元社長はこの概念に影響を受け、人々のサードプレイスを目指したカフェを創ったといいます。オルデンバーグは、「フランス人たちはアメリカ人に比べ、この3つの柱のバランスがとれている」と述べています。サードプレイスは家庭や職場では満たしきれない人間の欲求を満たしてくれる場所なのです。誰かとちょっと話したい、人の集まるところにいたい、珍しいものに出会いたい・・・ホームパーティを開催するのでも、2週間前から約束を取り付けるのでも、車で1時間かけて人に会いにいくのでもなく、ちょっと自分の気が向いた時に、ちょっとそこに寄れば顔見知りの誰かに出会って何気ない会話ができる。まさにパリのカフェはそんなサードプレイスだと言えるでしょう。
 

  パリはカフェで溢れている街。ちょっと疲れた時や休みたい時、目線の先にはたいていカフェが存在します。夜が更けるにつれ賑わいを増していくカフェ。冬場でさえも、多くのカフェはテラスを透明なビニールでしきり、暖房を入れ、楽しそうに語り合う人々で大賑わい。パリには彼らにとっては当たり前の、何気ない暮らしの豊かさがあるように思います。世界中の人々がつい憧れてしまうのはこうした豊かさなのではないでしょうか。